相続税対策の落とし穴 ~アパート建築・経営~

相続税対策の落とし穴 ~アパート建築・経営~

「アパート経営で相続税対策を!」
よく見る広告ですね。
う~ん、そうだなあ~、相続税の節税にもなりそうだし、アパート経営でもやるか!
と安易に考えないでください。
正しく取り組めば相続税の節税効果の大きいアパート経営。
しかし、一歩間違えば狙った効果が得られないどころか逆効果です。
今回は、「相続税対策としてのアパート建築・経営の注意点」についてのコラムです。

相続税対策の落とし穴 ~アパート建築・経営~ その1

相続税対策の落とし穴 ~アパート建築・経営~ 概要①

まずは面白い(と思って頂けることを前提に)不動産における相続税の考え方からのお話しです。
賃貸物件(貸家)の相続税評価はなぜ下がるか?
勉強熱心なあなたはもちろん即答できますよね?
愚問や!
とお𠮟りを頂くことを承知で確認がてらの説明ご容赦くださいね。
相続財産の評価方法の原則は時価評価です。
すなわち、該当資産を売却した時の市場価格ですね。
これは不動産も然りなのですがここからが不動産が面白いところです。
不動産の時価は実際に売却してみないと分かりません。
なぜならば2つと同じモノがないからですね。
家電なんかと異なり、個別性が高いってやつです。
相続税評価額が時価だとすると、不動産は相続が発生する度に全部売却しないと時価が算定できないことになります。
そこで不動産は相続時にまいどまいど売却せずに済むように、例外的に不動産価額の算出方法を定めています。
不動産は現金とは異なり、この算出方法に基づいた金額を相続税評価額としてもいいですよ~ということになっているのです。
お国は優しいのか、めんどくさがりなのか、はたまた両方なのか、よく分かりませんね。

相続税対策の落とし穴 ~アパート建築・経営~ 概要②

不動産における相続税の評価では、その不動産をどれだけ自由に使えるのか?によって評価が変わってきます。
車の免許でいう、AT限定、みたいな感じですかね。
限定なしの免許ホルダーはどんな車でも運転できますが、AT限定の場合はATしか運転できない、だから免許の価値が低いってことですよね。
不動産でも同じなんです。
賃貸物件は所有者が自由に使えないですよね?
賃借人がいる部屋に勝手に上がり込んで、今日はここで寝るんや!
なんてことは普通はしません(厳密にはやろうと思えばできますが速攻で警察沙汰です。)。
この自由の女神を奪われた可哀そうな大家さんには、可哀そうだから評価を低くしてあげるますよ~というのが賃貸物件の評価の考え方なんです。
家賃がちゃりちゃり入ってくるのをしっかりとエンジョイしている不動産投資家にとっては2度おいしい、夢のような制度なんですね。
納得感があるようでないようで、という感じかもしれませんが、とにかく相続税の評価では、お国がこのように評価せい!と大盤振る舞いしてくれているのです。
これだから不動産は優遇されているのですよ。
不動産様様ですね。

相続税対策の落とし穴 ~アパート建築・経営~ その2

ここからいきなり端折ります。
なぜなら私が出かける時間になってしまった、というわけではないのですが、計算式を掲載してもあなたには難解なのであまり意味がない、という勝手な判断です(すいません)。
計算式は国税庁のサイトや、他サイトにも掲載されていますが、結構複雑なので見ることはお薦めしません。
ですので要点だけ解説します。
前述の自由の女神さまの降臨で、お住まいの自宅と比べてアパートなどの賃貸物件は相続税の評価額が下がります。
どのくらい評価が下がるかというと、敷地の広さ、建物の築年数などにより前後しますが、ざっくり2割程度、とお考え下さい。
自宅としては1億円の評価であれば、アパートなら8000万円程度です。
アパートなどの賃貸物件を所有していて、具体的に評価額を知りたい、という方はご連絡ください。
24時間以内にお伝えします!

相続税対策の落とし穴 ~アパート建築・経営~ その3

相続税対策の最大の落とし穴①

さて、いよいよ本題です。
自由の女神の降臨で、いいこと尽くめに映るアパートなどの賃貸物件ですが、1点だけ激しい注意点があるんです。
しかもこれは大変に見落とされがち。
それは、評価額の算出方法の最後に出てきて、土地にも建物にも使われる、「賃貸割合」ってやつです。
これはめちゃくちゃ大事なので、この言葉だけは絶対に覚えてください。
この「賃貸割合」を巡って裁判にもなってます。

「賃貸割合とは、貸家の各独立部分(構造上区分された数個の部分の各部分をいいます。)がある場合に、その各独立部分の賃貸状況に基づいて次の算式2により計算した割合をいいます。」

国税庁HPから引用しました。
分かり難いですよね。
しかもここでは算式2は掲載してませんから。(笑)
要は建物の面積ベースでの稼働率です。
面積ベースで100%稼働(入居)していれば100%、半分しか稼働していなければ50%ということです。
ん~よ~わからんな~と感じたあなたは、まあ普通ですね。
出血大サービスで説明すると、極端な話、賃貸物件としてのアパートでも賃借人が誰もいない空室率100%の場合、自由の女神は降臨せず、評価減は受けられない、ってこなんです。
恐ろしいですね!
そんなばかな!
だって賃借人がいなくてもアパートはアパートじゃないか!
と憤っても埒があきません。
より詳しく解説させて頂くと、外見はアパートでも賃借人がいなければ、貸家とは判断しません!
だって権利制限されとらんから、自宅と同じ扱いでっせ~ということなんです。
自由の女神は外見では判断せんのです。
中身が大事!
ある意味まともな考え方な気がしますが理不尽ですね~。
女装している男性が、「私は女なんじゃい!」と主張してもだ~れも認めてくれないのと同じですねえ。(笑)
これは知らない人が多いし、アパートメーカーが説明しないことも多いかもしれません。

相続税対策の最大の落とし穴②

そもそもこの賃貸割合(空室率)ってどの時点で判断されるのでしょうか?
ずばり、相続開始時点です。
以下また国税庁HPからの引用です。

「継続的に賃貸されていたアパート等の各独立部分で、例えば、次のような事実関係から、アパート等の各独立部分の一部が課税時期(相続または遺贈の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)において一時的に空室となっていたにすぎないと認められるものについては、課税時期においても賃貸されていたものとして差し支えありません。」

1 各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること。

2 賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、空室の期間中、他の用途に供されていないこと。

3 空室の期間が、課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど、一時的な期間であること。

4 課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと。

ここに頻出する「一時的」がキーワードなんです。
一時的ってどの程度の期間なんや!ってことなんですけど、目出度く判例が出てしまっており、大阪高裁平成29年5月11日判決では5ヶ月間の空室は一時的とは言えない、とのことでした。
まことに遺憾です!
自由の女神は意外にせっかちでしたね~。

相続税対策の落とし穴 ~アパート建築・経営~ その4 まとめ

さあ、いよいよまとめにかかります。
端折っても端折りきれない、重要な内容です。
前述より、「賃貸割合」が大変に非常に激しく著しく重要と解説しました。
では賃貸割合(空室)対策はどのようにすればいいのでしょうか?
アパートなどの賃貸物件を新築する場合は、よくよくエリアマーケティングをすることです。
アパートメーカーの口車に乗せられないでください。
いいこと尽くめのアパート経営なんてあるわけないんですから。
地方都市など戸建て需要しかないエリアでアパートなどの賃貸共同住宅を建てても埋まりません。
借り入れをして建てたはいいものの、毎月現金は持ち出し、相続税は下がらなかったら、なんのためのアパート経営なのか分かりませんよね。
既存物件、特に築古物件の場合は、設備を更新する、リノベーション工事をする、場合によっては建て替える必要があるかもしれません。
とにかく相続税対策になるから、と飛びつかずに時間をかけて冷静に対応してくださいね。

今回のコラムはいかがでしたか?
今回もアパート経営の意外な盲点だったのではないでしょうか?
アパートは建てたり、持ったりしたら始まり、ではないのです。
適正に運営してこそ相続税対策として効果を発揮するのです。
当センターでは、適正な相続税対策としての賃貸物件の運営サポートやコンサルティングをしますのでお気軽にご相談ください。

このコラムを書いた人

センター長冨田 豊久

経歴

  • 三菱地所リアルエステートサービス(現)
    法人向け売買仲介・コンサルティング
  • 三菱UFJモルガン・スタンレー証券(現)
    不動産ファンド組成・ノンリコースローン貸付
  • みずほ証券
    不動産ファンド組成・CMBS組成・REIT上場・自己資金運用
  • シン不動産DX株式会社設立

20年以上に渡り、個人、法人のお客様と一室数百万円のマンションから一棟1,000億円超のオフィスビルまで合計3,000億円以上の不動産取引に携わりました。お客様の想いを大切にする、お客様に損をさせない、を徹底します。不動産・金融のプロフェッショナルとしてお客様が満足するサービルを提供することをお約束します。

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