相続不動産の共有名義は、争族の素!

相続不動産の共有名義は、争族の素!

相続を原因として発生する不動産の相続。
不動産を1物件しか所有していない被相続人(あなた)に多いケースが、1物件を複数の相続人の共有名義とすることです。
このケース、めちゃくちゃ多く散見されるのですが、1物件を共有名義とするリスクとデメリットを正確に把握してますか?
今回は、「相続不動産を共有名義にした場合のリスクとデメリット」についてのコラムです。

相続不動産の実態と考察

相続不動産の概論

日本の相続における遺産の大半を占めるといわれているのが不動産です。
その割合たるや、相続財産の実に99%を占める、というのは大げさなのですが、国税庁の発表によると令和3年分の申告実績ベースで約38%です。
4割も不動産が占めているのですね。
これはただごとではないです。
不動産を制する者が相続を制する、といっても過言ではないですよね。
そんなスーパースター不動産ですが、安易に無邪気に相続させてしまっているケースがものすごく多いのです。
ここでいう安易に無邪気に、とは共有名義のことです。
私は職業柄、登記簿謄本を拝謁する機会が多いのですが、ほんとうに多い。
私もビックリするくらいなので、みなさんはもっとびっくりすると思われます。
私は不動産のプロフェッショナルとして率直な感想として、リスクとデメリットを理解せずに1物件を安直に相続人の人数で共有名義にしていると感じています。
これから説明する共有名義のリスクとデメリットを知ったら、まず避けるべきが共有名義とのことをご理解頂けると信じて疑いません。

相続不動産の分け方の種類

相続が発生し、相続人が複数いる場合、相続不動産の分け方は以下5種類(4+1)です。

1.現物分割 
財産をそのまま相続する方法。不動産を相続人の一人が単独で相続し、他の相続人は金融資産など、不動産以外の財産を相続。

2.代償分割
現物分割では法定相続分どおりにならない場合(大半の場合)、不動産を相続した相続人が他の相続人に対して金銭(代償金)を支払う方法。よほど金融財産が潤沢にあるなどの場合を除き、東京などの都心の不動産相続では現実的ではない。

3.換価分割
不動産を売却し、売却で得た現金を各相続人で分ける方法。最も公平かつ相続不動産を用いて現金を最も多く残せるお薦めの方法。

4.共有分割
1物件を複数の相続人で共有名義とする方法。最も損をする避けるべき方法。

5.分筆
完全所有権の土地でしかできない方法。広大な宅地が相続不動産であれば大きな節税手段ともなり得る有効的な方法だが、かなり限定的な方法。

相続不動産の共有

相続不動産を共有することのリスクとデメリット① 総論

いよいよ相続不動産の共有名義のリスクとデメリットについての解説です。
「共有」という響きは流行りのシェアリングエコノミーっぽさがあり、なんだか時代の最先端、仲睦まじさを彷彿させますが、不動産の共有ほどリスクとデメリットの塊はありません。
なんでこんな制度があるのかと思うほどです。
もしかしたら悪徳不動産屋のためにできた制度なのかもしれませんねえ。
共有名義の最大のリスクは、共有名義人の全員の合意がなければ売却できない、ということにつきます。
ここで、ほんとうか?と疑問を持ったあなたは鋭いです。
大変に重要な論点なので深く正確に解説します。
上記における「売却」とは正確には、不動産(所有権)についてです。
あなたの持分はあなた単独の意志決定で売却できます。
しかしながら持分売却はデメリットだらけです。
具体例で説明します。
A子、B子、C子の3人で仲良く被相続人が居住していた一軒家を相続しました。
他に財産がなかったため、A子、B子、C子は仲良く各1/3の持分での共有名義としました。
さて、共有名義で相続したものの、A子は愛着のある実家に住みたい、B子は子供の教育費に充てたいから直ぐに現金が欲しい、C子は特に要望はない、と3人の意見が合いません。
A子がこの物件に住むには、原則としてB子とC子に代償金として、物件価格の各1/3を支払う(または持分を買い取る)、または家賃を支払う必要があります。
これって現実的でしょうか?
東京都心部の一軒家であれば1億円近くします。
ここではこの物件価格を9000万円とします。
その場合、代償金としてB子とC子に各3000万円、合計6000万円と多額の現金を支払う必要があるのです。
一般的にはこのように多額の現金を持ってはいないため、A子がB子とC子の持分を買い取って住むということは困難です。

相続不動産を共有することのリスクとデメリット② 共有持分の価格 その1

A子が頑張ってB子を説得し、今すぐ現金が欲しいB子に毎月家賃を支払うということで無事住むことができるようになりました。
しかし安心したのも束の間、しばらくすると、とにかく直ぐに現金が欲しいB子は、こともあろうに第三者Zに自分の共有持分1/3を売却してしまいました。
この時点でこの物件の共有名義は、A子、C子、Zの3人です。
さあ盛り上がってきました。
まずはB子がZにいくらで売却したかです。
物件の時価が9000万円だとすると、単純計算で1/3は約3000万円。
ではB子はZに3000万円で売却できたのでしょうか?
鋭いあなたは薄々勘づいていることでしょう。
そうです、そうなんです、そんな価格では売れなかったのです。
共有持分は区分所有権と違い、不動産に対する完全な権利ではないのです。
共有持分の相場はあってないようなものなので、一概に完全所有権の〇割とは言えないのですが、感覚値としては時価の7~8割です。
酷い場合は2割程度なんてこともあるようです。
なぜかというと、理由は大別して2点あります。
1点目は非常にロジカルなのですが、単純に完全所有権と比べて共有者全員の合意がなかれば物件が売却できないなど権利が制限されていることです。
2点目は1点目の理由からマーケットが小さいことからも一般人が購入する可能性は著しく低く、不動産屋や投資家などのプロしか買わないからです。
プロは足元を見ます。
買いたたきに来ます。
高くは買ってくれないのです。
B子が売った価格はせいぜい2400万円、おそらくは2000万円程度。さらにB子がお金に困って売り急いでいたのなら、1000万円だったかもしれません。
えげつないですねえ、もったいないですねえ。
さらにZは食指をA子とC子に伸ばし、ねちねちと嫌がらせのようにちょっかいを出すZに嫌気をさしたA子とC子は各持分を格安でZに売ってしまうのです。
さあ、ここで質問です。
一番得をしたのは誰でしょうか?
そうですね、相続に全く関係なかった第三者であるZなんです。
これでは被相続人(あなた)は浮かばれませんよね。

相続不動産を共有することのリスクとデメリット③ 共有持分の価格 その2

ここで改めて共有持分の価値と価格を考えてみましょう。
物件の価格が9000万円の場合、各共有持分は物件価格を単純に共有人数(持分割合)で割った価格にはならないということです。
これってせっかく現金ではなく、不動産という資産によって相続税を圧縮できたのに、物件価格の2割減以下でしか共有持分が売れなければ、節税分は全くの無駄、むしろ逆効果になっている可能性が高いですよね。
相続税評価額 < 不動産時価、だったはずが、 相続税評価額 > 不動産の共有持分の総額、になってしまえば節税効果はありません。
相続不動産を共有名義にするとはこのようなリスクとデメリットが発生する、ということなのです。
相続人が複数人いれば考え方も経済状況も三者三様です。
足並みを揃えて不動産価値を最大化しましょう!なんてことにはならないのです。
共有名義人に家族ではなく、第三者が入ってくれば足並みは乱れるばかりです。

相続不動産の争族対策

上述とおり、共有名義は百害あって一利ないです。
うちの家族は仲がいいから大丈夫や!足並みが乱れることなんでないわい!とたかをくくっているあなた、一番危ないです。
今はよくても相続が発生すればどうなるかわかりません。
経済状況だってどうなるかわかりません。
変わるものだからです。
だから対策が必要なのです。
共有名義回避のための対策は三つです。
一つ目は、不動産の相続人を決め、他の相続人には不動産と同等以上の金融資産などの財産を準備することです。
二つ目は、不動産を生前に売却し、マンションなど、人数分の不動産に分割することです。
三つ目は上記にて説明した、相続後の換価分割です。
一つ目の選択肢は潤沢な資産がある方以外は難しいでしょう。
二つ目の選択肢は割と容易にできます。
家を9000万円で売却し、3000万円のマンションを3つ購入すればいいからです。
相続人の中に物件に強い愛着を持つ人間がおらず、被相続人(あなた)が一番安心かつラクチンなのは三つ目でしょうか。
いずれにしろ、このような対策を講じることで不動産の価値を最大化できるのです。
せっかくの不動産です。
決して共有名義にして不動産価値を損ねるようなことがないようにしましょう。

今回の不動産の共有名義はいかがでしたか?
そのリスクとデメリットが十分にご理解頂けたのではないでしょうか?
当センターでは税金対策や相続手続に限らず、みなさまが円滑に相続できるよう、残されたご家族の絆がより一層強固になるよう、お手伝いしますので、ぜひご相談ください。

このコラムを書いた人

センター長冨田 豊久

経歴

  • 三菱地所リアルエステートサービス(現)
    法人向け売買仲介・コンサルティング
  • 三菱UFJモルガン・スタンレー証券(現)
    不動産ファンド組成・ノンリコースローン貸付
  • みずほ証券
    不動産ファンド組成・CMBS組成・REIT上場・自己資金運用
  • シン不動産DX株式会社設立

20年以上に渡り、個人、法人のお客様と一室数百万円のマンションから一棟1,000億円超のオフィスビルまで合計3,000億円以上の不動産取引に携わりました。お客様の想いを大切にする、お客様に損をさせない、を徹底します。不動産・金融のプロフェッショナルとしてお客様が満足するサービルを提供することをお約束します。

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