不動産、特に貸家の生前相続対策 ~大半の財産が不動産の富裕層向け~

不動産、特に貸家の生前相続対策 ~大半の財産が不動産の富裕層向け~

突然ですが、あなたは相続対策と相続税対策の違いを説明できますか?
私たちもできません。
では済まないのでできます。
「税」の一字の有無だけなんですが、大きく異なる2つの対策。
今回は、「大半の財産が不動産という富裕層の方に向けた生前の相続対策」についてのコラムです。

相続税対策としての不動産の欠点 

相続税対策としての不動産の欠点 概要

コラム「相続税対策の落とし穴」で相続時における賃貸物件(貸家)の評価減について解説しました。
賃貸物件でなくても現金よりは評価を大幅に下げられる、最強の相続税対策に映る不動産も欠点があります。
それはどんなに高額な不動産も売却しなければ現金化できない、ということです。
この論点は不動産を複数所有する不動産富裕層にとって最も頭の痛い課題ではないでしょうか?
どんなに魅力的で価値の高い不動産を所有していても、相続人に現金がなければ不動産を売却して相続税の納税資金を捻出しなければならない、という厳しい現実です。
これは不動産を多く所有していればいるほど問題になってきます。
不動産は現金よりは評価が低いといってもゼロ評価になるわけではないので、多くの、または高額の不動産を相続すれば現金で相続税を納税しなければならないのです。
これが冒頭申し上げた、「相続対策」と「相続税対策」の違いです。

相続対策と相続税対策の違い

「相続対策」と「相続税対策」の違いっていったいなんなんでしょうか?
禅問答みたいですが、しっかり大きく違いうんです。
一般的には相続税対策というと、相続税の納税額をいかに圧縮するか、という節税が主な論点です。
一方で相続対策はどうかというと、相続税の納税資金をどう捻出するか、ということも主な論点になります。
また、不動産を複数所有している場合はどの不動産をどの相続人に相続させるか、ということも相続対策の論点になります。
ん~奥が深いですねえ~。
相続対策としては相続税の納税資金をどうするかをよくよく考え、準備する必要があるのです。
相続税の納税期限は相続発生時から10ヵ月以内と定められています。
十分な現金がない場合、不動産を売却して現金化する必要があります。
不動産の購入経験者であればご存知だと思いますが、不動産の売却には思いのほか時間がかかります。
①査定 → ②売り出し → ③契約 → ④決済 というプロセスを経るので、どんなに急いでも3ヵ月です。
そもそも相続不動産が複数ある場合、どれを売却するかを決めるプロセスも追加されるので、どう考えて最低6ヵ月は必要ですよね。
そもそも売却活動が計画通り進むとも限らず、売却期間が半年以上に及ぶ、な~んてこともザラです。
ですので相続発生後に不動産を売却して納税資金を捻出するという行為は、せっかく相続税対策をしたにもかかわらず、相当に不利な状況で不動産を売却しなければならなくなる、ということになります。
ではこのような事態を回避するための何かよい対策はあるのでしょうか?

不動産の生前相続対策

アパートなどの賃貸物件(貸家)の生前相続対策 その1 概要

前述で不動産の相続対策の欠点を解説しました。
では多くの不動産を所有しているものの、財産の大半が不動産であり、相続税の納税原資が不足することが想定される場合はどのような対策を施せばよいのでしょうか。
所有の不動産を用いた対策は大別すると2パターンです。
①生前贈与
②法人化
③不動産売却による現金化
生前贈与に関しては、バカ高い贈与税を払うのはバカらしい!おまえはそんなことも分からん素人か!とお叱りを頂きそうですがこれにはワケ、というか前提条件があるんです。
不動産を複数所有している方は既に②の法人化は対応済みかもしれませんし、法人の株式の評価方法など法人化は①の贈与よりも論点が多いです。
以下にて個別に解説します。

アパートなどの賃貸物件(貸家)の生前相続対策 その2 生前贈与①

前述にてさわりをお話ししました。
一直線に本題に入ります。
一見ナンセンスに映る生前贈与が効果的な前提条件とはいったいなんなんでしょうか?
ズバリ、築古のアパートやマンションなどの賃貸物件を所有している場合です。
これも不動産という資産特有の制度の盲点を突く通好みの対応です。
1億円のアパートを贈与したら、5000万円も贈与税払わなあかんやんけ、いやや!
と考えるのが普通ですよね?
正気の沙汰では考えられません。
国税庁の回し者、とレッテルを貼られるでしょう。
そんなご提案をしたら、当センターには永遠にお客様は現れないことでしょう。
まさに、永遠のゼロ、です。(映画としては素晴らしいのですが)
さあ、不動産の盲点を炸裂させます。
具体的には土地と建物を分けて考え、評価額の高い土地は贈与せず、評価額の低い建物だけを贈与するのです。
え~、そんなバカな!
土地と建物を分けるなんて、わけがわからん!
となると思いますが落ち着きましょう。
家賃収入は建物に帰属します。
ですので建物を贈与してしまえば土地の所有者に帰属する地代を除く、大半の家賃を建物の所有者(相続人候補)に帰属させられるのです!
盲点だったのではないでしょうか?
次章で具体例を解説します。

アパートなどの賃貸物件(貸家)の生前相続対策 その2 生前贈与②

土地5000万円、建物5000万円(新築時)築30年の木造のアパートをあなたが所有しているとします。
新築当時5000万円であれば、現在の固定資産税評価額は300万円程度のはずです。
さあ、思い切って建物だけを贈与します。
この建物の贈与税の課税価格は固定資産税評価額から借家権割合30%を控除して、210万円です。
そうすると贈与税額は以下となります。

〈 210万円 - 110万円(基礎控除) 〉 × 10% = 10万円

魔法のような税額ですねえ。
この税額を納税すれば、建物は相続人候補の所有になると同時に家賃収入も同人のものに!
この建物贈与スキームはメリットが2点あります。
1点目は家賃収入を生前に相続人候補に帰属させることで、納税資金をプールできることです。
2点目はあなたが所有していれば受領していた家賃収入という相続財産の増加を抑えることができることです。
いいこと尽くめですね!
とはいかないのが辛いところ。
デメリットもしっかりお伝えするのが当センターのポリシーです。
めちゃめちゃ良心的ですね!
前提条件があるので一概には言えないのですが、残された可哀そうな土地を相続する場合に、「貸家建付地」としての評価減が適用されないことです。
この辺も踏まえて相続対策ってことですね!

アパートなどの賃貸物件(貸家)の生前相続対策 その3 法人化

法人化は様々なメリットがあります。
一方で民法、会社法、法人税法、所得税法など、多くの関係法令があり、実は難易度が非常に高いのです。
法人化による相続対策も、基本的な考え方は前述の贈与と同じです。
違いは建物を法人に売却するのか、相続人候補個人に贈与するか、です。
ただし、法人の場合は論点が複雑多岐に渡るため、個人に贈与するほど単純ではないのです。
誰の出資で法人を設立するのか、被相続人から法人へ建物をいくらで売却するのか、法人での購入資金をどのように調達するのか、などなど贈与に比べて論点はてんこ盛りなのです。
ですので相続対策として法人化を検討するほうが得策な場合は、物件や資産総額などを勘案すると限定されると考えられます。

不動産の生前相続対策 まとめ

さあ、いよいよまとめにかかります。
結局のところ、「相続税対策」に焦点を当てて、やるだけやってしまうと対策したはずが相続発生時には的外れになってしまうことも十分に考えられるので注意が必要です。
なぜならば相続税の各種制度設計(税法の改正含む)はお国が決定権を握っており、コロコロとお国に有利な変更がなされるからなんですねえ。
当時の相続制度への対策をしても、実際の相続発生が10年以上も先、な~んてことはザラです。
直近では「タワマン封じ」が発動しそうですよね。
お国は後出しじゃんけんが得意です。
そしてこれには誰も文句を言えません。
この辺りを十分に理解した上で対策を施す必要があるのです。
ですので今回は生前贈与と法人化の2つを解説しましたが、メリットとデメリットをよくよく比較し、取り組む必要があります。

今回のコラムはいかがでしたか?
今回も建物による生前対策は意外な盲点だったのではないでしょうか?
繰り返しますが、相続税対策と相続対策は似て非なるもの。
相続対策を予め十分に周到にすることが何よりの相続税対策になるのです。
当センターでは、生前贈与や法人化する場合の試算やコンサルティングをしますのでお気軽にご相談ください。

このコラムを書いた人

センター長冨田 豊久

経歴

  • 三菱地所リアルエステートサービス(現)
    法人向け売買仲介・コンサルティング
  • 三菱UFJモルガン・スタンレー証券(現)
    不動産ファンド組成・ノンリコースローン貸付
  • みずほ証券
    不動産ファンド組成・CMBS組成・REIT上場・自己資金運用
  • シン不動産DX株式会社設立

20年以上に渡り、個人、法人のお客様と一室数百万円のマンションから一棟1,000億円超のオフィスビルまで合計3,000億円以上の不動産取引に携わりました。お客様の想いを大切にする、お客様に損をさせない、を徹底します。不動産・金融のプロフェッショナルとしてお客様が満足するサービルを提供することをお約束します。

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